目次
はじめに
遺言には、遺産を誰にどのように渡すかや、葬儀等についての希望などを記載しておくことができ、それによって紛争を防止することができます。
相続業務に携わっていると、遺言書を書いたほうがいいのでは…?と思う方が多くおられます。「公正証書遺言」は公証役場で公証人関与のもと作成をする必要があり、多くの費用と手間がかかります。また、「自筆証書遺言」については書き方がわからない、書いても保管・管理ができるか不安で作成に至らないなどと、理由は様々のようです。
さて、2020年7月から新たな制度が始まり、遺言制度が利用しやすくなりました。遺言書保管制度を利用すれば、自筆証書遺言書を法務局で保管してもらうことが可能となり、紛失や偽造などの管理上の不安解消だけでなく、家庭裁判所での検認も不要となります。
遺言書を書いたほうが良い人
ケース | 遺言書を残すメリット |
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子どもがいない | 子どもがいない場合には、配偶者と死亡した者の兄弟姉妹が法定相続人となります。この場合、遺言で配偶者にすべての財産を相続させるとしておけば、争いを回避することができます。 |
内縁の配偶者がいる | 内縁の配偶者には相続権がありません。遺言がない場合には、一切財産が承継されないということにもなりかねませんので、遺言書を作成しておくべきです。 |
子の配偶者に財産を残したい | 内縁の配偶者と同様に子の配偶者にも相続権がありません。介護などで世話をしてもらったお礼に財産を渡したいということであれば、遺言書の作成は必須です。 |
相続人が行方不明 | この場合は、行方不明の者のために不在者財産管理人を選任して遺産分割手続きを行うことになり、報酬を支払うなどの不都合が生じます。行方不明者に対する配慮はしつつ、遺言を残しておくことで円滑な遺産分割手続きが可能となります。 |
離婚した配偶者との間に子どもがおり、再婚している | 前の配偶者の子どもと現在の配偶者が相続人となりますが、場合によっては両者で話し合うことが困難だと思われます。紛争を防ぐために遺言を残しておく必要性が高いのではないでしょうか。 |
相続人が1人もいない | 相続人となる者がいない場合には、相続財産管理人を選任することになります。財産をどのように処分するか遺言で定めておく必要性が高いといえます。 |
事業や会社を承継させたい | 事業用の財産や会社の株式などを、事業承継者に相続させたいというケースは多いと思います。遺言を残しておかないと、他の相続人が承継してしまい、事業が立ち行かなくなるといった事にもなりかねません。 |
遺言書の作成
法務局で保管してもらえる遺言書は、民法968条に則って作成された自筆証書の遺言書です。
■全文・日付・氏名を自書し押印
民法968条第1項では、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」とされています。「自書」は読んで字のごとく自分で書くことを意味します。ボールペン等の消えない筆記具で書きます。
■相続財産目録についてはパソコンで作成可
民法968条第2項では、「前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉に署名し、印を押さなければならない。」とされています。相続財産目録をパソコンで作成する場合や通帳や登記事項証明書の写しを使用する場合は、各頁に署名押印が必要です。
■保管してもらう遺言書の形式
- 用紙は文字が明瞭に判読できるA4サイズの紙
- 各頁にページ番号を記載
- 片面のみ記載
- 複数ページであっても綴じ合わせない
- 用紙の上下左右に規定の余白を設ける
- 封をしない
注意事項及び様式例はコチラ(法務省のサイト)を参照してください。
保管の申請
■保管申請する遺言書保管所を決める
保管申請を行う遺言書保管所は、次のうちのいずれかでなければなりません。
- 遺言者の住所地の遺言書保管所
- 遺言者の本籍地の遺言書保管所
- 遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所
弊所周辺では、次の法務局が遺言書保管所に指定されています。
・佐賀地方法務局本局 電話:0952(26)2148(代表)
・福岡法務局久留米支局 電話:0942(39)2121(代表)
全国の遺言書保管所一覧はコチラ(法務省)
■申請書の作成・添付書類の準備
遺言書の保管申請書「別記第2号様式(第10条関係)」を作成します。様式及び記入例はコチラ(法務省)からダウンロードします。
添付書類として、遺言者の住民票(本籍地及び戸籍筆頭者の氏名入り)を取得します。(発行日から3ヶ月以内のもの)
■保管申請の問い合わせ・予約
法務局に管轄の遺言書保管所であるかを電話で確認し、その際に手続きの予約も取りましょう。
■保管の申請
遺言者は次のものを持参し、保管申請を行います。
- 遺言書(ホチキス止めなし、無封)
- 遺言書の保管申請書「別記第2号様式(第10条関係)」
- 遺言者の住民票(本籍地及び戸籍筆頭者の氏名入り)
- 手数料(3,900円、法務局で収入印紙を購入して申請書に貼付します)
- 印鑑(スタンプ印やシャチハタは不可)
- 本人確認書類(運転免許証又は個人番号カード)
■保管証の受領
遺言書保管所で遺言書の保管申請をし、保管が開始されたら、遺言者の氏名や保管番号などが記載された「保管証」が交付されます。
ほかに、遺言書が保管されている場所が記載されており、再度の遺言書保管申請や閲覧申請等に使用しますので大切に保管しておきましょう。また、遺言者の死後に親族が保管証を見つけることで、遺言書の存在が判明します。
保管後の取扱い
■保管後にしなければならないこと
遺言書を保管してもらった遺言者は、その氏名や住所等に変更があった時は届け出なければなりません。
■保管後にできること
- 遺言者は、保管してもらった遺言書を閲覧することができる
- 遺言者は、遺言書の保管の申請を撤回し、保管を中断することができる
- 遺言者の死後は、誰でも自らに関係する遺言書の保管の有無を調べるべく遺言書保管事実証明書の交付を請求することができる
- 関係相続人等は、遺言者の死後に遺言書情報証明書の発行を請求し、遺言書の内容等を知ることが可能
- 関係相続人等は、遺言者の死後に遺言書を閲覧することができる
制度利用上の注意点
遺言書の形式が法令に則っていない場合や、申請書や添付書類の不備など、却下事由に該当すれば遺言書の保管はしてもらえません。
また、担当の法務局の職員は、遺言者の本人確認は厳格に行いますが、遺言の内容については確認してくれません。せっかく保管しても、内容が無効な遺言では意味がありません。
弊所では、遺言書の内容チェック、遺言書保管制度利用に関するサポート業務を行っています。お気軽にご相談ください。